帰らない妻、届かない言葉
Hさんが帰宅しても、奥さまの姿がない。
それは一度きりではなく、いつの間にか「当たり前」になっていました。
心配になってLINEを送っても返事はなく、電話をかけるとようやくつながるも「今日は友達の家にいる」「泊まっていくね」と、事後報告のような一言。そんな夜が増えていったといいます。
やがて、ある夜。
いつものように奥さまが帰ってこないため電話をかけると、今度は出ません。代わりに返ってきたLINEのメッセージは、「離婚したい」たった一文でした。
Hさんはその瞬間、頭が真っ白になったそうです。
数日前には一緒に外食をして笑い合っていたはず。なのに、どうして突然こんな言葉が出てくるのか……
理由を聞いても、奥さまの答えは冷たく突き放すものでした。
「もう無理なの。気持ちが冷めた。好きじゃなくなった」
それでもHさんは諦めきれず、何度も話し合いを試みました。悪いところがあれば直す、努力もする。そう伝えても、奥さまは目を合わせることなく「決めたことだから」と言い切ったのです。
噂が変えた心の針
それでもHさんは、どこかで奥さまの気持ちが戻るのではないかと願っていました。離婚の話が出た後も、彼は実家を訪ねたり、何度か連絡をとろうとしたそうです。しかし、奥さまの姿はそこにはありませんでした。
「また友達の家かな」と思っていた矢先、知人からある話を聞かされます。
それは、奥さまが男性と二人で食事をしていた、という噂です。
最初は信じられませんでした。けれど、その目撃談は一度ではなく、何度か耳にするようになりました。
胸の奥に小さな違和感が積もっていく。
Hさんはついに、真実を確かめる決意をしたのです。
「嫌われたのなら、別れるしかないのかもしれない。でも、もし浮気が理由なら……知っておきたい」その思いを胸に、Hさんは弊社へ相談に訪れました。
調査の日、明らかになった現実
Hさんは穏やかで誠実そうな青年でした。
打ち合わせのときも、奥さまへの愛情が言葉の端々に感じられました。
「真実を知りたい。それで、前に進みたいんです」そう静かに話す彼の表情には、決意と不安が入り混じっていました。
調査は奥さまの勤務先から尾行を開始。
仕事を終えた奥さまは車に乗り込み、いくつかのスーパーを転々とします。店に入る様子もなく、駐車場で時間をつぶすように待機。
そして、しばらくして一台の車が現れ、そこには男性の姿がありました。奥さまはその車に乗り換え、男性とともに住宅街へ。二人が入ったのは、アパートの一室。
その後、何度かの調査を通じて、奥さまがほぼ毎晩その部屋に泊まっていることが確認されました。朝になると、男性に車でスーパーの駐車場まで送ってもらう――そんな日常が続いていたのです。
真実の先に見えた、ひと筋の光
調査報告を終えたあと、Hさんはしばらく何も言わずに報告書を見つめていました。やがて、静かに深呼吸し、「ここまで撮ってもらえるなんて……本当に、すごいですね」と小さくつぶやかれました。
その声には、怒りよりも、
“やっと真実にたどり着けた安堵”が混じっていました。
奥さまから「もう好きじゃない」と告げられたとき、Hさんは深く落ち込んでいたそうです。それでも、報告書を見ながらこう話されました。
「……好きな人ができたのなら、正直に話してほしかった。そうだったとしても腹立たしさや悲しみの感情は起きたかもしれませんけどね(笑)」
そして、続けて
「好きじゃないと言われ冷たくされるよりも、好きな人ができたと告げられ申し訳ないという態度なら、仕方がないと思えたような気もします。なにより人格を否定されたわけじゃない。そう思えば、少し気持ちが軽くなりました」と言っていました。
その言葉を聞いたとき、私は探偵としてではなく、ひとりの人間として胸が熱くなりました。
浮気の証拠は、ただの“裏切りの証明”ではありません。真実を知ることで、自分を責めることをやめ、これからの人生をどう生きるかを考えられる――そのための第一歩でもあります。
Hさんの目に浮かんでいたのは、悲しみではなく、どこか穏やかな決意の色でした。きっと彼は、この出来事を境に、自分らしい人生を取り戻していくのでしょう。
その後、Hさんは弁護士のアドバイスを受け、調停を経て離婚が成立。奥さまと男性双方から慰謝料を受け取りました。
「時間もお金もかかったけれど、納得できました」とHさん。その表情には、ようやく一区切りを迎えた穏やかさがありました。
探偵として見つめた“心の整理”
浮気の真実を知ることは、時に深い痛みを伴います。けれど、その痛みを通してしか見えない現実もあります。
Hさんは「ただ離婚するより、真実を知ってからの方が納得できた」と話していました。その言葉を聞きながら、私たちも胸が熱くなりました。
どんな結果であっても、真実と向き合おうとするその姿は、私たちに“人が立ち上がる強さ”を思い出させてくれます。



ですが、調査を依頼して、担当者・調査員の皆様が本当に寄り添って
調査してくださり、とても心強かったですし、励みになりました。
希望以上の調査結果になりました。本当にありがとうございました。