一枚のレシートが告げた小さな違和感
ふとしたきっかけで、日常が音を立てて揺らぐことがあります。
Kさんの場合、それは夫のジャケットを片付けようとしたときのことでした。
ポケットのふくらみに気づいて手を入れると、一枚のレシートが出てきたのです。
何気なく目を通したそのレシートには、
大型スーパーで購入した「サンマ」「大根」「しじみ」などの文字が並んでいました。
以前のKさんなら、気にも留めなかったでしょう。
夫は料理が得意で、休みの日には台所に立つこともよくあったからです。
けれど、ここ最近の夫はまったく料理をしていません。
しかも、その食材たちは家の冷蔵庫にも、食卓にも現れた覚えがない──。
不思議に思ったKさんは、もう一度レシートを見返しました。
購入したのは、平日の昼間。
夫がふだん仕事をしているはずの時間帯です。
「どうしてこの時間に? しかも、この食材は一体どこへ…?」
じわじわと広がる不安。
その疑問は、やがて「もしかして…」という不吉な想像へとつながっていきました。
疑いと葛藤の中で
Kさんは、夫を愛していました。
だからこそ、「もし浮気だったら…」という思いを受け止めきれずにいました。
問い詰めて真実を知るのが怖い。
でも、知らずにいるのもつらい。
レシート一枚を手がかりに、疑心と現実の間でKさんの心は揺れ続けました。
眠れない夜が続き、食欲も落ち、笑顔すら作れなくなってきた頃、Kさんはようやく覚悟を決めます。
「怖いけど、真実を確かめたい」
その一歩を踏み出し、私たち探偵のもとへ相談に来られたのです。
初めてお会いしたときのKさんは、無理に笑顔を作っていました。
でも、その瞳の奥に痛みと覚悟が滲んでいました。
やっぱり──夫の「もうひとつの顔」
調査はすぐに始まりました。
夫は営業職で外回りが多いとは聞いていましたが、
想像以上に日中の自由時間があることがわかりました。
そして、ある平日
スーパーで食材を買う夫の姿を確認。
そのまま彼は、住宅街の一角にある小さなアパートへと消えていったのです。
数時間後、部屋から出てきた夫の隣には、若い女性の姿が。
さらに別の日には、二人でドライブを楽しんだり、
レストランで寄り添って食事をしたりしている様子も確認されました。
極めつけは、夫が「出張」と言って家を空けた日。
実際にはその女性のアパートに泊まっていたのです。
Kさんの疑いは、残念ながら的中してしまいました。
真実の先に見えた「未来」
調査報告をお伝えした日、Kさんは静かに涙をこらえていました。
「やっぱり、そうだったんですね」
その声は震えていましたが、不思議と取り乱す様子はありませんでした。むしろ、どこか安堵したような雰囲気さえ感じられました。
「真実を知るのは怖かった。でも、知らないままでは、何も前に進めなかったと思うんです」
Kさんはそう言って、少しだけ微笑みました。
報告後、これからどうするかを尋ねたとき、彼女はしっかりと前を向いて答えてくれました。
「まだ夫のことは好きなんです。だから、一度ちゃんと向き合って話をしたい。浮気が終わるなら、やり直したいと思っています」
その言葉には、悲しみではなく、未来への希望が感じ取れました。
証拠がすべてを終わらせるための武器ではなく、夫婦として再出発するための材料になる。
Kさんはそう信じていたのだと思います。
終わりではなく、始まりの一歩
人は、真実を知ることで初めて「選ぶこと」ができます。
目をそらしたままでは、何も変わらない。
でも、怖くても向き合うことで、未来を自分の手に取り戻すことができる。
Kさんの姿を見て、私は改めてそう感じました。
この先、夫婦の形がどう変わっていくのかは分かりません。
でも、Kさんには、きっと明るい未来が待っていると信じています。
そして、あの一枚のレシートは──
悲しいだけの証拠ではなく、彼女の人生が動き出す「きっかけ」だったのかもしれません。



担当の方のとても親切な対応により心が救われ復縁に向けて頑張っていこうと決意する事ができました。本当にありがとうございました。